“俺様”大家の王国
十郎は、固まった奈央の顔の前で手をひらひらと振った。
反応は無かった。
ぴったり横まで接近してみても、奈央は固まっていた。
しかし、そのまま調子に乗って奈央の肩を寄せようとしたので、とうとう奈央は思い余って十郎にカップの中身をお見舞いしてしまった。
「熱っ!」
「あ……すみません、何か……本能的に」
「……そうですか。本能的に……」
今までは油断している隙を突いたり、騙し討ち的な方法でちょっかいを出してはいたものの、
遂に奈央は警戒心のスイッチをオンにしてしまったようだった。
十郎は、初めて潔癖で手強い相手に出会い、ちょっとわくわくしていた。
一方奈央は、執拗に嫌がらせを繰り返してくる十郎を、冷めた目で見つめ返していた。