“俺様”大家の王国
「はい、急な話ですみません……でも、そろそろほとぼりも冷めた頃だと……」
『そうですね。了解ました。
とりあえず今晩は僕はこっちにいますから、夕飯は結構です』
「……分かりました」
電話越しの十郎さんの声は、いつも通りだった。
怒ってなさそうだ。
……本当は怒っているのかもしれないけど。
『それじゃ、おやすみなさい』
「はい、……おやすみなさい」
携帯電話を閉じながら、私は一つため息を吐いた。
別宅のマンションで起こった事。
あれは私の人生からしても大事件だった。
けど、当事者である彼がそれを気に留めていない様子なのは、少し悔しかった。
忘れれば元通りになるのなら、忘れたい。
だけどなかなか忘れられないから、困っている。
わざとじゃなかったと、彼は笑っていた。
あの笑顔は、どっちなのだろう?
私をからかっているのか、あるいは本物の好意なのか……。