“俺様”大家の王国



「彼女の母親――紅原綾子直々の命令さ。

『娘を連れ戻して説得しろ』ってね。

それだけ言いに来たんだ……」
 

光太郎は十郎の持っていた伊達眼鏡を奪い取るように引っ手繰り、二人にくるりと背を向けた。


「待て!」


「やだよーだ!」
 
光太郎は去り際にあかんべえをして、宣戦布告した。

「もう大体のことは検討ついてんだ……計画は順調なり。

後は時間の問題さ。

じゃあねー」
 

明るく去っていった光太郎を、止める事も出来ずに十郎はただ固まっていた。


「……止めるんじゃなかったのか」
 
しばらく経ってから、ミエロが言った。

「そのつもりではあったんですけどね……」


「でもとりあえず、あの坊ちゃんがそういうこと言ってきたって事は、

このマンションも奈央にとって、安全でなくなったって事だな」


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