“俺様”大家の王国
ふうっと溜め息を吐いたら、おもむろにミエロが口を開いた。
「なあ、歌わないのか?」
「歌?」
「……いつも、台所に立っている時、小さい声だけど、歌ってるじゃんか。
今日は、歌わないのか?」
「……今、そういう気分じゃありません」
「楽しい気分じゃなくても、歌えよ。
多少は、その……気晴らしになるだろうし」
強引だなぁと思った。
「そんなもんですか?」
「そんなもんなんだよ」
「そうですか」
だけど、いつも適当に頭に浮かんだ歌を口ずさんでいたのだが、
いざ歌おうとなると何も浮かんでこなかった。
それに、そろそろ料理も出来上がる。
「すいません。やっぱり、今日は……」
けれどもミエロは、さほど残念がる様子を見せず、
曖昧に笑うと、小さく「そっか……」と言うだけだった。