“俺様”大家の王国
漫画でも小説でもドラマでも、とにかく恋愛ものが苦手だった。
何しろ『共感』するという事が出来ないので、
登場人物の表情も、交わされる愛の言葉も、すべてが私の前を滑り落ちて行く。
(そうじゃない。
無意識に拒絶して、目に入らないようにしていたんだ……!)
私は、考え続けた。
自分の記憶を、遡って探していった。
私が、『恋愛』を嫌うようになったのは、いつからなのか。
何が原因なのか。
私は、洗いものもそこそこに切り上げて、自分の部屋に帰る事にした。
だけど、帰ってからも、起きている間はずっと、考えていた。
途中、自分は何ておかしな事に悩んでいるのだろうと正気に戻り、
少しだけ馬鹿らしくて、笑ってしまった。
世間には、もっと自分の感情に忠実に、恋人を求める若い娘の、何と多い事か……。
(私は、ひねくれ者なんですね……)
自嘲した。
しかしやっぱり、悲しいのに笑おうとするあたり、
私の心にはかなりの天の邪鬼精神が働いているとしか思えない。
――十郎さんとは、この日も会えなかった。