“俺様”大家の王国
現代は便利なもので、パソコンや付属の機器さえあれば、自宅に居ながら会議が出来てしまう。
必要な書類はメールに添付すればいいし、指示も電話で伝える事が出来る。
よって、十郎がパレスに居続けても、あまり業務に支障は無かった。
どうせ、一日のほとんどは仕事尽くめだった。
会社の執務室にいようが、アパートの一室にいようが、同じことだった。
その代わり、仕事の為の外出を極端に減らしてしまった彼は、
表向きがほぼニートのような、近隣から見たら怪しい生活を送っていた。
だが、彼は誰にも自分の身分を明かさなかった。
一度、試してみたかったのだ。
『家』から解放された自分が、自分の事を何も知らない他人の中で、どれだけの事が出来るか。
それまで彼のいた世界では、『名前』こそが全てだった。
曰く良い血筋、由緒ある歴史、頼もしい財力等々……。
セレブだのブルジョワだの、そういった上流階級は、華やかに見えて、
実際は嫉妬やスキャンダルにまみれた泥沼の世界でしかない。
陰険で邪悪で腹黒で、社交は常に相手を値踏みする機会でしかなかった。