“俺様”大家の王国
そしてそのうち、十郎は分からなくなったのだ。
自分から『家』を取ったら、何が残るのか。
(『家』は広かった……――家族の心がバラバラに離れてしまうくらいに)
元々、家族はみなそれぞれが忙しく、いつもそれぞれ自分の生活を送っていた。
家にいる時間もまちまちで、食事は自分達で好きな時間に勝手に食べたし、
顔を合わせても、特に喋るような事もなく……。
それが、普通だと思っていた。
それ以外を、知らなかった。
皆、自分の抱えているもので手いっぱいだった。
だけど、気にしていなかった。
決定打は、母の死だったようにも思う。
母が亡くなって以来、弟は主を失った飼い猫の如く実家に寄り付かなくなったし、
父も何かと理由を付けては、仕事仕事で出張を繰り返して、家には十郎一人でいる事が多くなった。
もちろん、使用人の数はそれなりにいたが、彼等は家族ではない。
もっとフレンドリーに、誰とでもわけ隔てなく接したいと思っていた彼は、
ある日女中頭に叱られてしまった。