“俺様”大家の王国
普通なら、もっと早く甘い関係に落ち込むと踏んでいたのに、ちっともその気が無かった。
常に、十郎は思っていた。
奈緒は、何かを躊躇っている。
他に誰が好きだから、自分を嫌いだからという理由ではなく、自分を遠ざけている。
もし、別に意中の人間がいれば、奈央は素直にそう切り出すだろう。
言わないという事は、そんな人間はいないということだ。
……だけどあの子は、なびかない。
恋愛に耐性が無さ過ぎるのではなく。
恋愛を恐れているように。
「……まったく。どうしたらいいものかな」
会ってもぎくしゃくするのは分かってたから、わざと時間をずらして外出した。
また、部屋にいても、寝室からは出ないようにしていた。
靴も毎回靴箱に入れてしまったし、奈緒は拓海と違って、
十郎を探して部屋を漁るような不躾なまねはしないから、部屋にいてもばれなかった。
(……って、何をしてるんだ、僕は)