“俺様”大家の王国
「……もしもし?」
寝起きの、ちょっと伸びかけた声で言うと、すぐに返事があった。
『こんな時間に、すいません』
十郎さんの声は、どこか切羽詰まったような感じだった。
「どうかしたんですか……?」
もしや彼はどこか遠い国にいて、事件にでも巻き込まれたのだろうかと一瞬考えてから、
急にドアにノックがあった。
心臓が跳ね上がる。
――コンコンコン。
遠慮がちに、三回。
「もしかして今、外にいますか……?」
『はい……』
私は電話を切り、玄関まで小走りになった。
施錠を解き、おそるおそるドアを開けると、そこにはおよそ薄着と言っていいような格好の、十郎さんがいた。
「こんばんは……っていうより、もうおはよう、かな……」
吐く息が白い。
外気はもう、完全に冬の空気だ。
つんと、鼻に抜けるような冷気。
十郎さんはしどろもどろに、ちょっと間抜けみたいな挨拶をした。