“俺様”大家の王国
――イザマジュウロウ。
その聞き慣れない文字の連続は、しばらく言葉として認識出来ないでいたが、
やがてそれが『居佐間十郎』だという事に気付いた。
理解してからは――何故か、聞いた事のある名前なような気もした。
「ちょっと訳がありまして、名前を軽く偽っていました。
姓の読みだけを……」
「おかしいと、思ってました……。
だって、『俺様』だなんて……」
「ええ、あれ皮肉なんです。祖父の考えた……」
「おもしろい、おじい様ですね……」
「そうですか?」
場所をリビングに移して、長いお喋りが始まっていた。
私の部屋に暖房器具は無いので、二人で一つの毛布に包まっていた。
不思議と、抵抗はなかった。
いくらか、頭の中が麻痺している気がした。