“俺様”大家の王国
ドラマに舞台にCM、映画にラジオ活動など、母の仕事は多岐に渡った。
(自称)美人で(自称)性格も良く、演技力は天下一。
そして頭の回転が早く、切り返しの絶妙なこと……等々、世間が母を賛美する言葉はたくさんあった。
だけど、母は仕事に生きる女だった。
とどのつまり、家庭を顧みる事など、一度として無かったのだ。
それでも幼い頃は、私と母は一緒に暮らしていた。
昼間の間、ずっと祖父母の家に預けられていたけども、母は必ず迎えに来てくれたし、時には手を繋いで眠る事もあった。
だけどいつからか、私は祖父母の家に泊まる事が多くなっていた。
そのうち、着替えや教科書など、生活に必要なものが、自然と祖父母の家に移行していった。
でも、どうせすぐに家に持ち帰らなくてはいけないと、心のどこかで思っていた。
しかし、母はなかなか帰って来なかった。
ひやりとした不安が、生まれた。