“俺様”大家の王国
「……げ!」
「どうしたんですか?」
その日、部屋の掃除を終えたミエロが、台所に立つ私の首元を凝視して絶句していた。
彼の視線の先にあったのは、十郎さんから貰った指輪だった。
今は、鎖に通してネックレスのように身につけている。
やはり、料理をする上で指輪はしたくなかった。
衛生的な事が頭を掠めるし、汚したくなかったし……。
「そ、それ……」
「ええ、十郎さんから……」
睡眠不足なせいか、頭の中がぼんやりとしている。
(そういえば、私は今朝……プロポーズをされたんだった……!)
思い出した瞬間に眠気が吹き飛び、顔がかっと熱くなった。
正常な判断力が蘇ってくる。
私は思わず、ミエロから目を逸らした。
するとミエロは何故か、この世の終わりのような様子で、
「俺は急用を思い出した……」
そう説明調で口走るなり、部屋から出て行ってしまった。