“俺様”大家の王国



(うああ……気まずい……)
 

しばらく固まっていたが、鍋が噴きこぼれそうになって慌ててコンロのつまみを回して、んっ? となった。



何で気まずいんだろう……?


そんな理由、無いはずだった。


(ミエロだってもっと軽く、『おめでとう』なり何なり言ってくれればいいものを……)


「――そりゃ、あの人がさぁ、君に惚れてたからだよ」


「うわぁびっくりした!」
 


音も無く背後に現れた小林君の呟きに驚いていると、


彼は「隙ありっ」と洗ってザルに上げておいたミニトマトをつまんだ。


「いたんですか、小林君……」


「うん、いたんです、奈央ちゃん」
 

彼は今日は、しばちゃんを連れていない。
 

彼曰く、喧嘩中のために、しばちゃんを上司に預けているのだそうだ。


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