“俺様”大家の王国



「この、涙は……」
 
十郎さんはしゃがみ込むと、そっと私の頬に触れた。

「ちょっと、びっくりしただけです……。

あんなこと、言われたの初めてでしたから……」
 
今まで、そういうものとはまるっきり縁が無かった。

この歳になって、未だ彼氏の一人もいない。

……『奥手』なんて言葉、もう今は死語かもしれない。

だけど私は、これに関して他に、

自分を表現する言葉を知らなかった。
 

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