あたしだけの王子様
『分かりました』
それだけ言うと、佐伯楊はスタスタとこっちに向かって歩いてくる。
佐伯楊が通って行くのを近くの女子はじーっと見つめている。
そして、あたしの横を通っていく。
・・さわやかな香水の匂いが鼻を通り抜ける。
『分からないことがあれば、周辺の人に聞きなさい』
その声と同時に、佐伯楊の近くの女子は我先にと自分の自己紹介を始める。
『あたし、香織ッ!!』『アタシは裕美ッ♪』『瑠璃で~す★』
そんな熱狂的なアピールを軽々対応していく佐伯楊。
芸能人って、大変なんだなあ。
『それじゃあ、ホームルームを終わる』
挨拶を終えて、あたしは藍の元へ行こうと席を立とうとした。
そしたら、急に後ろから声をかけられて、思わず振り返る。
『初めましてッ。名前なんて言うの?』
芸能人スマイルを存分に使ってあたしに話しかけてきた佐伯楊。
周りからは(女子の)視線が刺さるようにしてくる・・。
早くこの場から立ち去りたい・・ッ
あたしは、一刻も早く藍の元に向かうため、『河井杏里だよッ!!』とだけ言うと一目散に駆けて行った。
・・佐伯楊の妖しい笑みにも気付かずに。