げんせんかんにっき
屋台
夕方。
からすが鳴いています。
もうすっかり秋の夜です。
僕と君は公園にある屋台に行きました。
のれんの向こうにはコートの襟で顔を隠したお客さんが一人います。
僕と君はおでんを食べました。
君はおいしそうにおでんを食べます。
僕はまずそうにおでんを食べます。
僕と君の間に会話はありません。
顔を隠したお客さんは何も食べないで、コップに残ったお酒もそのままにずっと俯いています。
君は唐突に問います。
「旦那さん、ここのおでんに小指はありますか」
屋台の旦那さんは無言で答えます。
君は顔を隠したお客さんの左手を引きずり出しました。
そこに手はありませんでした。
旦那さんが今日はもう店を閉める旨を告げます。
僕と、何かを噛み砕いている君が立ち去りのれんが片付いた後も
お客さんは黙ったまま俯いていました。