雨
次の瞬間には状態を起こされて、顔を上に向けられる。
不安げな茶色の瞳が、何かを探るように、揺れた。
穏やかな顔と、甘ったるい笑顔。
この男が私に向ける顔は、それだけしか知らなかった私がはじめて見た、苦しげな顔だった。
…無性に
無性に、苛ついた。
こいつの見せる表情は、いちいち、その中に込められた感情を、余すところなく垂れ流しにしているようで。
私の胸のなかの、決して他人を入れていなかった部分にまで、その甘ったるさや苦さが流れ込んでくる。
厭で厭で、たまらなかった。
私の背中に添えられる手を振り払うべく、手に力を入れるがぴくりとも動かずに、そんな自分にもいら立ちを覚え、眉間にしわがよる。
目の前にいるこの男にも、拒絶の意味を込めて睨みつけた。
どけ。
はなせ。
そう言葉を吐きだそうと、口を動かす。
しかし、言葉を発しようとしたことで、乾きすぎた喉に鋭い痛みが走った。
思わずせき込みそうになりながら、そうすればさらに喉が痛むことに気付き、こらえる。
焼けるように痛い喉。
今この瞬間は、ただ
目の前にいる疎ましい存在のことより
水が欲しい、と思った。