幸せ
「よし、産むと決まったら・・・」
「そうだね」
「けじめ付けに行くぞ」
「うん」

アタシは、智也のお父さんとお母さんに会った。

「初めまして、磯崎亜矢です」
「初めまして」

人生の中で、こんなに緊張したことはなかった。

「智也、お前、どうやって育てるつもりだ」
「俺、高校中退して働くよ」
「お前、幸せに出来るのか」
「あぁ、ぜってー幸せにしてやるよ」

智也がアタシの手を強く握った。

「なら、何も言わない」
「え・・・あ・・・ありがとうございます」
「亜矢ちゃん、頑張るのよ」
「はいっっ」

智也と顔を合わせて微笑んだ。
幸せだなって思った。

「よし、明日は亜矢の家だな」
「うん」
「じゃあな。体冷やすなよ」
「ありがと。おやすみ」
「あぁ。おやすみ」

秋の夜は、ひんやりとしていた。

でも、智也の優しさで、温かかった。


「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

お母さんとのこの会話。
これも、今日で終わりかもしれない。
赤ちゃんのこと知ったら、きっと今までと何かが変わる・・・
そう思った。

「おはよ、亜矢」
「智也!迎えに来てくれたの?」
「あぁ。心配だかんな」
「大丈夫だよ・・・くしゅん・・・」
「おい、大丈夫か?」
「へへへ!大丈夫」

自転車の後ろの席で智也のシャツを掴む。
こんなことさえも、幸せに思った。

学校は終わり、智也が家に来た。

「初めまして、三宅智也です」
「初めまして、娘がお世話になってます」

智也は、緊張している様子だった。

「亜矢、お父さんは反対だ」
「え・・・」
「亜矢、お母さんもよ」
「お母さんまで・・・」

お父さんが反対する予想はしていた。
でも、アタシを産んでくれたお母さんまで反対だとは、思わなかった。

「亜矢?子供を育てるのは、難しいことなのよ?」
「分かってるよ」
「強くならなきゃいけないの」
「アタシ、強くなるから」

この時アタシは、そう決意した。

「どうやって育てるんだ」
「僕、高校やめて働きます」
「無理だ。そんなんで育てられるはずがない」
「幸せにしますから!」
「・・・」
「亜矢さんと赤ちゃん、幸せにしますから!!」
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