母の心音(こころね)
「そしてな、苔のように地面に敷かれておる雪を擦るようにして剥がしたんや。名前は知らんけどな、雑草が芽を出して居った。この雑草はな、夏になると幼い杉よりも背丈が伸びて埋もれるんや。蔦も絡まるしな。幼い杉を妬んで引き摺り下ろすようにな。世間ではようあることや。大きな山に育てるにはな、下刈りするんや。初夏にな、草木や絡まった蔦を刈るんや。汗びっしょりになってな、そりゃ大変な作業や。ええ山を育てようと思ったらな。それを思うと、木起しが終わらないうちに、地面にはもう雑草の芽が出て、初夏の仕事を残して、冬は去ってゆくように思えてな。自然の力には逆らえんのや。世間の荒波も同じやって、そう思ってな。だけどな、大きな山を育てるにはな、あの松の木のように、雪にも負けず、雑草にも負けない大きな木になるまでは、毎年繰り返し繰り返し木起こしも必要やし、下刈りも必要なんや。子供等がすくすく育つまではな」
雪苔の
山の整理も終えぬ間に
仕事残して冬は去り行く
雪苔の
山の整理も終えぬ間に
仕事残して冬は去り行く