母の心音(こころね)
「十二月の寒い日やった。野良仕事を終えて、家に帰ってきても誰も居らんのや。広い家の中はがらーんとして、静まりかえっているんや。何の音もないんや。食事の支度も独り分でええし。家の中に入るとな、四人の子供のことを思い出すんや。今ごろどうしとるんやろな。一人家の中に居るとな、そりゃ沈むんや。それでな、おもてに出たんや。庭先から遠い山を眺めたんや。暫く眺めとったんや。そしたらな、浅間の頂きの一本杉が見えたんや。それをジーっと眺めてたんや。その杉の木な、取り残されたようにひっそりと立ってな。その杉の木も寂しそうに一人なんや。今の自分のようにな。そしてな、自然に出たんや」



遠くみゆ
浅間の山の頂きに
一本杉の姿わびしく


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