母の心音(こころね)
昭和四十三年(一九六八)一月四日
「末娘な、地元の中学校の教員になって、家から通っとるんや。そりゃ楽しいわ。末娘は一番可愛んでな。今が本当に楽しい日々や。ある日突然言うんや、東京に行くってな。次男坊が東京に居るんで、心配はないけど。こんな田舎で過ごしたら、伸びる芽を摘むようなもんやと思ってな、反対しなかったんや。それが判ってから又独りになるのかと思ってな、くる日もくる日も沈んだんや。一日一日がそりゃ短いんや。後二ヶ月ちょっとで居なくなると思うとな。朝が来る度に時の流れを感じるんや。柱時計がコチコチと言う度にな」



娘子と
分かれる時が近づけば
夜明けて今日も時は去り行く


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