母の心音(こころね)
「冬休みの登校日に、末娘が中学校へ行った時やった。その日は強い風が吹いておったし、自分の体も蝉の抜け殻のように仕事をする気になれなかったんや。家の中にジーっと独りで居たんや。独りコタツに入ってあれやこれやと、いろいろ思い出すんや。柱の傷を見たり、壁の落書きを見たりしとったんや。末娘は又居なくなるんや。表は強い風や。柱時計の音が大きく聞えては又小さくなるんや。そしてな四畳半の末娘の部屋へ行って、窓越しに表を見たんや。子供たちは世間の荒波でうまくやっておるやろか、寒い木枯らしの吹く世間でうまくやっておるやろか、甘えん坊の末娘はうまくやってくれるやろか、ぼーっと表を眺めとったんや。表はそりゃ寒い木枯らしが吹いて、荒れ狂とった。そしてな、ふーっと竹藪を見たんや。その竹藪な、入り乱れて大きく揺れ動いていたんや。えらいもまれ方や。必死になってな、髪の毛を振り乱して舞う獅子舞いのようにな。世間の荒波で子供達はどうしとるやろな。東京に行って末娘はうまくやるやろか」
荒れ狂う
獅子舞うごとき形して
竹揺れ動く木枯らしの里
荒れ狂う
獅子舞うごとき形して
竹揺れ動く木枯らしの里