夏のグランド
奈美は、昌吾の自転車にまたがった。
「ほら、乗りな。」
後部座席をぽんぽんと手で叩く。
昌吾は、前かごにサブバックを投げ入れると、ちょこんと後ろに座った。
「さー、いくぞー‼」
急発進させると、昌吾は奈美の後ろすがたに、ギュッと掴まった。
そんな姿が、とっても愛らしい。
でも、今の昌吾は、奈美に約束をはたせない。
いや、昌吾は約束なんて覚えて無かった。
奈美だけが、その約束を、小さい頃から信じて待っていた。

「ほーらっ‼ここが新しい学校ですよ~」
手でひらひらと校舎をかざす奈美を無視して、昌吾は自転車を降りる。
「何ー、校舎の中まで乗せてってってあげるってー。」
奈美は自転車を降りて、おしながら昌吾をおいかける。
「いやだよ。女に乗せられてるところなんて見られたくねーもん。」
ポケットに手を突っ込み、猫背になりながらあるく昌吾。
「なーに意地はってんだか。」
隣にならんだ。
肩が触れそうになるくらい。
校門には、『市立藤崎中学校』と書かれてあって、今日からここに
通うのかと思うと、少し気が重くなった。
新しい仲間に、新しい生活。
自分がここでやっていけるのか。
周りには、同じ不安を抱えているような生徒が、たくさんいるようだ。
「もう一回一年生なんて、なんだか不思議な感じよね。」
ニコニコと柔らかい笑顔を浮かべた奈美が、自転車を止める。
「なんだよ、早く駐輪場いかないと、入学式はじまるぞ。クラス発表の
やつも見に行かなきゃだめだし。」
奈美は、不安そうな表情を見せた。
「大丈夫だって。」
昌吾は、自分より高い奈美の肩をポンと背伸びして叩いた。
「…」
奈美は不安そうな顔を崩さない。
「あはっ…」
耐えきれないというかのように、奈美は馬鹿笑いした。
周りの新入生達が、こちらに一気に注目する。
「なっ、なんだよ。」
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