--tear--
お祭りにはたくさんの人がいた。
色とりどりの浴衣が綺麗に辺りを飾っていた。

「真衣林檎飴食べた~い。」
真衣は甘えた声で言った。
「じゃあ買いに行く?」
大貴が言うと真衣は嬉しそうに相槌を打った。
「じゃ~俺ら林檎飴買ってくるわ!」
あたしと愁のことなんてお構いなしに2人でさっさと行ってしまった。

あたしはどうしたらいいのかわからなくて、
ずっと下を向いたまま立っていた。
愁はその様子に気がついたのか、その場の空気を明るくするために話しかけてくれた。
「どっかで座ろっか?足疲れるでしょ。」
「…うん。」
あたし達は近くのベンチに座った。
周りはガヤガヤとうるさいのに、あたし達のいる場所だけ静かに感じた。
「あいつら2人で買いに行ったな~。」
愁は笑って言った。
あいつらって…真衣と大貴。
「そうだね。高宮君って真衣のことどう思ってるの?」
「ん~…?たぶん好きだと思うよ。可愛いって言ってたし!」
「そうなんだ!じゃあ、両想いだね!」
あたしは自分のことのように喜んだ。
だって親友の恋だもん。
応援したいのは当たり前だよ。

「澪ちゃんは好きな人いないの?」
…好きな人?
「いないよ~。彼氏いない歴15年だし。」
あたしは笑って言った。
今時彼氏いない歴15年とかダサすぎるよね。
「そうなの?意外だな!」
「意外?」
あたしは“意外”という言葉に反応した。
「だって可愛いのに彼氏いないとかありえないでしょ!」

…可愛い。
愁は平気で恥ずかしいことを言う。
あたしはそういう言葉に慣れていない。
すぐに顔が真っ赤になって、下を向くことしかできなかった。

「じょ、冗談きついよ~。」
あたしは必死で誤魔化した。
「冗談じゃね~よ。だって今日駅前で浴衣姿見たとき、マジで可愛いと思ったもん。」
ますます顔が赤くなる。
どんどん熱くなるのがわかった。
「…真衣たち遅いね!」
あたしは話題を変えた。
「だな~。あいつらイチャついてんじゃん?」
「あたし達忘れられてるのかな~。」

なんとかその場の空気をのりきった。
気づくと1時間は過ぎていて、結局真衣と大貴は戻って来なかった。
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