あの夏を忘れない
…どすっ








図書室の外から鈍い音が聞こえるとともに小芝居が始まった。




床に打ちひしがれた中川がドンドンと地面を叩く。


「ひどい…高橋…。俺というものがありながら他の男と…男と…」





「いや。別にやましいこともしてなければ私と中川の間にも何もないし…」





よろよろと壁についた華がウルウルとした瞳で恨めしそうににらむ。


「抜け駆けは…抜け駆けはしないって約束だったじゃないぃぃぃ。」






「いや、抜け駆けをした覚えもなければ、そんな約束をした覚えもないんだけど…」












くだらない小芝居にツッコミを入れながら春貴に目をやる。












やはり楽しそうに笑いながらも時々曇るその瞳が気になった。

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