木漏れ日が差し込む場所
閉館を告げる合図が館内に響きわたる。

「それ借りる?」

目の前に置かれていただけの本を指差し、彼が私に問いかけた。

考えごとばかりしていて、数頁しか読めていない。

「下で待ってる」

小さく頷いてみせた私に届いたのは、うれしすぎる言葉。

聞き間違いではないだろうか?

カウンターで手続きを済ませた私は、出口へと急いだ。

「お待たせしました」

壁に背を預け、携帯を操作している。そんな彼の姿が視界に入り、自然とその言葉が飛び出した。

「確かに…」

あまりにも小さな声。

「ん?」

聞き逃してしまった私に返ってくるのはただ一つ。なんでもないと、苦笑いを浮かべる彼の姿だけだった。
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