流星群【短編集】
『う〜っ、さっみぃ』
孝一が製図室のドアを開けて入ってくる。
23時、バイトが終わってからやってくる彼は、チャコールグレイのダウンジャケットに彩度を抑えた何色もの毛糸で編まれたマフラーを巻いていた。
手にはフルフェイスのヘルメット。
『お疲れ〜』
千秋は製図の手を止め、孝一に言葉をかける。
千秋は肩からベージュの毛布を掛け、そこから腕だけを出している。
『寒かった?』
千秋の前の席で図面を描いていた由樹も振り替えって声をかける。
女の子二人の足元には電気ヒーターがフル稼働していた。
『寒いよ。ここも寒いけど』
孝一は寒さで固まった頬をほぐすように言い、ジャケットを脱ぐ。
荷物は彼の指定席、部屋の中央に置かれた大机の一角へと無造作に置かれる。
『ってかさ、秀人は製図進んだの?』
デスクトップパソコンに向かってカップ麺をすするジャージ姿の秀人に、孝一がわざとらしく聞く。
『まぁーあれだね、こう閃きは突然やってくるもんだからね』
秀人の誤魔化しが始まった。
千秋と由樹は声を殺して笑う。
卒業設計の提出まであと一ヶ月。
学科棟四階、今夜も製図室の灯りが消えることはない。