黒の葬祭者

2:影

す、と何かが通り過ぎる気配。
アカツキはソファに腰掛けて息を吐いた。


「…依頼?」


「そう、昨日ね」


ぬばたまは短く答えると手を差し伸べた。

ずる、とソファの影の中から黒いものが飛び出す。
黒いものはぬばたまを囲むように纏わりついた。


「おかえり、僕の影」


その一端を持ち、頬に当てる。
答えるように、黒いものは動く。

アカツキはその様子を見ないようにしながら、温くなったコーヒーを口に運んだ。

黒いものは、先刻ぬばたまが言った通り。
ぬばたまの影、その一部だ。

それがぬばたまの「能力」の一つである。


「…しかし、珍しいな。おまえが昨日の今日で動くなんて」


「依頼人の希望だからねぇ」


くすくす、と声が零れる。
剣呑としたその声。

アカツキは顔が引き攣った。

怒っている。
直感がそう告げたからだ。
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