黒の葬祭者
ぬばたまは、見かけより随分偏屈な男だ。

自分が嫌いな客は相手をしない。
依頼の内容も、自分が気に入らなければ受けたりしない。

それはアカツキと万屋を始めた当初から変わることがなかった。

普通なら、そんなことをしていれば成り立たない。
だが、ぬばたまは受けた仕事は完璧にこなしてのけた。

それこそ、事後処理まで完璧に。

それがリピータを呼ぶ要素となり、現在に至っている訳だが。


「…報酬は?」


アカツキは窺うように訊ねる。
それにぬばたまは短く返した。


「指五つ」


「五百万?大した依頼じゃねぇな。内容は?」


ぴくり、と空気が震えたのが解かった。

背筋に冷や汗が伝う。

地雷を踏んだか。
そんな考えが頭を過ぎった。


「…少し裕福なヒステリック夫人からの浮気調査さ」


「……よく受けたな、そんな依頼」


かちゃ、とティーカップが音を立てる。

音を立てたのは、ぬばたまが最近手に入れたヘレンドだ。
この間は、エインズレイを揃えたと言っていた。

黒に鮮やかな花や蝶の柄。

一客七万近くするものを、ぬばたまは優雅に使う。

アカツキには理解が出来ない趣向だった。
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