黒の葬祭者
「お得意様の紹介らしかったんだよねぇ」
「…普段はそんなん一蹴じゃねぇか」
呆れたように言うアカツキ。
ぬばたまは、にっこりと笑って人差し指を立てた。
「くだらない夫婦の情感に、前金で五百万も払うんだから、利用しない手はないだろう?」
何かを含んだような笑みに、アカツキは眩暈を覚える。
思わず、頭を抱えてしまった。
そうだ。
ぬばたまというのは、そういう男なのだ。
「本来なら、キミにやってもらうつもりだったけど」
何かが耳の横を通り過ぎる。
かつん、と音が響いた。
耳の端に、軽い痛みと熱。
横目で音の元を見れば、後ろの壁に果物ナイフが刺さっている。
「アカツキがいなかったから、僕がやる羽目になっちゃってさ」
片手にはティーカップ。
片手にはソーサー。
どうやって投げたのかなんて疑問は考えるだけ無駄だった。
とりあえず。
背後に漆黒のオーラを纏った男から逃げる術を考えることに集中した。