黒の葬祭者
3:訪問客
――コツコツ
扉が叩かれる音がした。
不意に発せられた音。
それに2人は顔を向ける。
アカツキは、首筋に感じる悪寒がなくなったことを密かに安堵した。
「邪魔かね」
顔を向けた先。
そこには中年の男が立っている。
中肉中背でセンスのよいブランドスーツを身に着けた男だ。
「…珍しいですね。貴方がこちらにお見えになるのは」
ぬばたまはにっこりと笑顔を作った。
先ほどアカツキに与えていたプレッシャーなど微塵も感じさせない。
(詐欺だ…)
相変わらずとわかっていれど。
アカツキは一人ごちらずにはいられなかった。
「たまにキミ達の顔でも見ていこうと思ってね」
「それは光栄ですね。紅茶でも如何です?先ほど、いいものを買ってきたんです」
「ほぅ。キミの見立ては外れないからな。いただくとしよう」
一人背中を丸めるアカツキなど気にも留めず。
男2人は会話を続けている。
紅茶を買ってきたのは俺だ、と心内で訂正する。
だが、振り回されたアカツキは声に出す気力も失っている。
時間は事実を訂正されないまま過ぎていった。