手
『もしもし』
数回の呼び出し音の後、受話器から声が聞こえた。
心なしか、いつもよりも元気のない声色。
「久しぶり―。どした?」
あたしは気付かない振りをして、何事もなかったのように尋ねた。
しばらくの沈黙の後、埜乃ちゃんは絞り出すかのような声で言う。
『ジュン、今日シフト入ってます?』
予想にもしない質問に、一瞬固まる。
「いや、今日は休みだよ」
あたしの答えに、受話器の向こうから溜め息が聞こえた。
『……ジュンと、連絡取れないんです』
最近メールも電話もシカトされてて、と続ける埜乃ちゃん。
何となく、予想していたことだった。
浮かぶのは、この前のジュンさんの態度や言葉。
『何か言ってました?あたしのこと』
『何か変わった様子ありました?』
続け様に投げ掛けられる質問たち。
しばらくあたしは答えることなく、ただそれらを聞いているだけだった。