手
上着をはおり、携帯と煙草だけ持って外に出る。
辺りを見渡すと、駐車場の隅に見覚えのある黒いボックスカー。
あたしの姿に気づき、助手席から降りてくる人影。
「お疲れさん。俺は帰るね」
そう言って、あたしの肩をぽんと叩く麗真。
「麗真」
あたしはそんな奴を呼び止める。
麗真は立ち止まって、口にくわえた煙草を外す。
ん、とただそれだけ聞き返しながら。
「あたし、何を話せばいいの?」
この三週間近く、ずっと考えてた。
けど、何一つ思いつかなかった。
それはずっと、別れてから自分の気持ちを見ないフリをしてたから。
「何でもいいんだよ。お前が思ってること全部話せば」
麗真がそう言って、今度はあたしの頭を叩く。
「難しいことじゃねーよ。お前なら大丈夫」
規則正しく叩かれる頭。
少しずつ、落ち着きを取り戻す気持ち。
「ありがと」
あたしがそう言うと、麗真は手に持った煙草を口に戻して去って行った。