緊張で震える手で、助手席のドアを開ける。


センスのいい、芳香剤の香り。


運転席であたしを待ってるのは、車の持ち主。


「久しぶり、佳奈美」


あの頃と変わらない優しい表情。


それだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。


あたしはただ頷いて、助手席へと乗り込みドアを閉める。


「今日はごめんな」


拓海が、本当に申し訳なさそうに謝る。


さっきまでの怒りを忘れて、あたしはただ首を振る。


「でも、どうしても会いたくて」


拓海がそう、切なげに言う。


ハンドルに突っ伏して、続ける。


「急に押し掛けるなんて反則だよな」


情けなく笑うその横顔を見て、何でちゃんと連絡してあげなかったんだろうと後悔する。


「俺ね、ずっと佳奈美のこと忘れたりしてないからな」


ハンドルに突っ伏したまま、首を回してあたしを真っ直ぐに見つめる。


「もちろん、佳奈美が好きな気持ちだって変わってねーよ」













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