手
拓海が、あたしの頬の雫を優しく拭う。
でもその雫は、拭っても拭っても溢れてきて。
そしてその涙の理由が自分でも解らないあたしは、ただ拓海の優しい手に甘えていた。
でも。
拓海の手があたしの頭を優しく撫でた時。
うっすらと浮かんだ顔。
それを自覚したあたしの涙は余計に溢れ出す。
「佳奈美?」
拓海が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
優しい表情で、付き合っていた頃のことをふと思い出させる。
何だかんだ言ってもいつも優しくて、
忙しい毎日の中でもあたしとの連絡を優先してくれて。
睡眠削ってまで電話をくれたり、
メールの途中で寝てしまった次の日は本当に申し訳なさそうに謝ってきた。
今思うと、本当に素敵な彼氏だった。