手
手
ゆっくりと、助手席のドアを閉める。
拓海は最後まで優しい笑顔で手を振って車を発進させた。
あたしはそれを、見えなくなるまでただ呆然と見ていた。
見えなくなって、ふと我に返るあたし。
携帯のディスプレイをみるともう23時半過ぎ。
ラスト作業も終わった頃で、駐車場には車がもう1台のみ。
皆も帰ってしまったかとあたしは慌てて荷物を取りに中へ入る。
スタッフルームに電気は付いてるものの、姿が誰も見えない。
上着を来て、鞄に荷物を詰めているときに店内に続くドアが開く。
「あ、まだいたんですか?皆は?」
入って来たのはジュンさんで、あたしは動揺を隠すように尋ねた。
「皆は帰ったよ」
ジュンさんはそう言って、煙草に火をつける。
「もしかして、待たせました?鍵締められないですよねー」
申し訳なくてそう言うと、ジュンさんは黙って首を振る。
何だか今日はジュンさんがおかしい。
勤務中もだったけど、今もそう。
少し気まずい雰囲気のまま、沈黙が訪れる。