手
沈黙の中、隣からため息が聞こえた。
あたしは涙を気付かれないように拭って、顔を上げた。
「ごめん、さっきの全部忘れて」
ジュンさんはそう言って、煙草を灰皿で押し消す。
あたしも存在を忘れていた自分の煙草の火を消す。
「俺今日変だわ」
そう言ってジュンさんは、自嘲的に笑う。
「大丈夫?」
そう言ってあたしの頭を優しく撫でる。
ただそれだけが聞きたかったんだけどなぁ、とぼそっと呟く。
一旦止めたはずの涙が溢れだして、止まらない。
人前で涙を流すのが嫌いだった。
特に異性の前で泣きたくなかった。
恋愛で悩んで、苦しんで泣くのが何だかずるい気がしていた。
だから埜乃ちゃんが苦手だった。
なのに何で、ジュンさんの前ではこんなに泣いてしまうんだろう。