沈黙の中、隣からため息が聞こえた。


あたしは涙を気付かれないように拭って、顔を上げた。


「ごめん、さっきの全部忘れて」


ジュンさんはそう言って、煙草を灰皿で押し消す。


あたしも存在を忘れていた自分の煙草の火を消す。


「俺今日変だわ」


そう言ってジュンさんは、自嘲的に笑う。


「大丈夫?」


そう言ってあたしの頭を優しく撫でる。


ただそれだけが聞きたかったんだけどなぁ、とぼそっと呟く。


一旦止めたはずの涙が溢れだして、止まらない。


人前で涙を流すのが嫌いだった。


特に異性の前で泣きたくなかった。


恋愛で悩んで、苦しんで泣くのが何だかずるい気がしていた。


だから埜乃ちゃんが苦手だった。


なのに何で、ジュンさんの前ではこんなに泣いてしまうんだろう。











< 60 / 65 >

この作品をシェア

pagetop