手
「佳奈さん」
ピークも終わり、店が落ち着いた頃。
洗い場にいた埜乃ちゃんに手招きされる。
「報告があるんです」
埜乃ちゃんはそう言って、一旦手を止めた。
「1つめは悲しい報告で……」
埜乃ちゃんが少し寂しそうにうつ向く。
「実はあたし、来週いっぱいで辞めるんです」
寂しいなぁ、と続けて言う。
学校が忙しくなって、両立が難しいんだとか。
「そして、彼氏と別れちゃいました」
さらに寂しそうに言う埜乃ちゃん。
以前から彼氏と喧嘩が多くて、あたしはよく相談に乗っていた。
あたしと同じ大学の、学部は違うらしい3年生。
「すれ違いってゆうか……もう何話しても喧嘩になっちゃって」
少しだけ、目を潤ませて。
埜乃ちゃんが唇を噛む。
「けど、悲しくはないですよ」
そう言って、表情を一変させる。
「新しい彼氏できたんです!!」