ブラックコーヒー
手
――4月28日。
桜も完全に散って、
だんだん暑くなって来たころ。
あたしは駅前で人を探す。
「彩子?」
すると、後ろから
あたしを呼ぶ声。
「圭介!」
あたしはパッと
振り返ってその人の元へ。
今日は圭介と付き合って
10か月目。
大切な、月に一度の
記念日デートなのだ。
「久し振り。
ごめんな、あんま会えなくて」
圭介が少し視線をおとす。
「ううん。大丈夫だよ」
だけどあたしはそれを
戻すように圭介の瞳を
のぞき込む。
「そっか」
圭介はあたしの瞳を見て
笑顔で言った。
「・・・仕事大変??」
「うん、まあ・・・」
圭介は頭をかきながら言う。
あたしはそれを見て
心がツキッとした。
あたしには、わからない大変さ・・・。
「行こうッ?」
でもそんなの今は関係ない。
あたしは圭介の腕に
自分の腕を絡めた。
「誰かに見られるよ?」
「いいよ」
圭介の少し困ったような表情。
“いいの??”
そんな目をしてる。
あたしは少し唇を
尖らせて言った。
そして、その腕に
ギューッと力をいれる。
こんなトキ、いつも思う。
“あたしが、大人だったら・・・”