†Orion†
夫がいて、子供がいて。
しかも俺の一方的な片思い。
たった週に一度。
会話は朝の挨拶と、業務上の必要最低限のものだけ。
それなら、熱はすうっと冷めていきそうなものなのに。
諦める気持ちも沸き起こらず、会えば会うほど彼女を好きになっていく一方だった。
「斉藤くん。いま入ったオーダーのオムレツ、ほうれん草抜きでお願いしてもいい?」
「はい」
話しかけられると、些細なことでも気持ちが弾む。
面倒なオムレツ作りも、楽しくなってしまうから不思議だ。
バターとオイルを半々に落としたフライパン。
ジューッという混ざり合う音と、バターの香りが、いつもと違うものに感じられた。