†Orion†


旦那さんは紳士的に握手を求め、俺もまた、されるがままにそれに応じる。



「浩ちゃん、すぐにご飯用意するから」


「あぁ」



――浩ちゃん……

優菜さんは旦那さんのことを、そう呼んでいるんだ。


今すぐ、ここを立ち去りたいと思った。

でもそれじゃ、優菜さんが俺をここに招いた意味が無駄になってしまう。



……優菜さんが俺を家に入れた理由。

自分の領域をすべてさらけ出すことで、俺に考えを改めさせようとしているんだ。


普通に考えればそうだろ?

既婚者で、しかも自分のことを好きだと言っている学生を、簡単に家に招くはずがない。


さっきだって。

呑気にコーヒーを淹れながら、“帰る”と言った俺を引き止めたのは、旦那さんと会わせるためだ。


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