†Orion†
「雅人くん、下まで送るわ」
靴を履き終えてドアを開けると、奈緒ちゃんたちを寝かしつけた優菜さんが、玄関のすぐ手前にある部屋から出てきた。
「今日はごちそうさまでした」
「いいえ」
浩平さんとは違って、優菜さんは“次”の約束をしない。
俺の頭のなかには、何も嵌められていなかった浩平さんの左手の薬指の残像が浮かぶ。
「……なんで、指輪してないの?」
エレベーターを待っているあいだ、そんな疑問を俺は投げかけた。
呼んだエレベーターは、二階で止まったまま、いっこうに動こうとしない。
「エレベーター、止まってるね。階段で行こう」
少しくらい待っていてもいいのに。
もうすぐ来るだろ?