†Orion†
「ここでいいよ。今日はありがとう」
優菜さんに背を向けて、階段を下り始めようと、足を踏み出す。
でも、たった一段さえも下りることができない。
俺の足は宙に浮いたままだ。
優菜さんが、俺のシャツをキュッと握り締めているから――……
「……優菜さん?」
「……っ……、う……っ……」
声を押し殺して、優菜さんは泣いている。
――頼むから……
俺のシャツから手を放してくれよ。
俺を引き止める理由なんか、ないだろ?