†Orion†
「……そうだね……。あたしには、子供と夫がいるから」
優菜さんの瞳からは、涙がポロポロと零れ落ちる。
階段の電灯に照られされて、それは真珠のようにキラキラと光っていた。
毅然とした態度で、すがりつく優菜さんを振り切るつもりでいたのに。
そこに、一瞬の迷いが生じる。
彼女を包み込もうと、自然とあがっていく俺の腕。
“パパー”
“浩ちゃん、ごはんすぐ用意するわね”
さっき目の当たりにした、優菜さんの家族の残像が、突然、脳裏に浮かび上がってきた。
“パパは「似てない」って言うんだよー”
スーパーで、奈緒ちゃんがこぼした愚痴。
それでも奈緒ちゃんは浩平さんが大好きで、彼が家に帰ってきたとき、大喜びして我先にと駆け寄って行った。