†Orion†


さくらちゃんだって。

まだ二歳の幼い子が父親を求め、おぼつかない足取りだったけれど、それでも必死になって駆け寄って行っていた。



俺は、上がったままの腕をゆっくりと下ろす。



一瞬生じた俺の迷いを、即座に消し去ったのは。


優菜さんに対する気持ちの暴走でも、泣いている優菜さんを受け入れる欲望でもなかった。



何よりも大切で、守らなければならない、かけがえのないもの――……

同時に、それは大人のわがままで決して傷つけてはいけないんだ。


奈緒ちゃんとさくらちゃんにとって。

優菜さんたち夫婦は、大切な両親なんだ。



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