†Orion†


浩平さんを待たせて、俺は更衣室に向かった。

その途中、ドリンクバーの原液を取りに裏に下がっていた三枝さんと顔を合わせた。



「三枝さん」


「うん?」


「杉浦さんの旦那さんが来ていたこと、誰にも言うなよ」


「あ……うん。斉藤くん、知り合いだったの?」


「あぁ。昔からの知り合いだよ。変な噂が立つと困るから、絶対に言うなよ?」



念を押す俺に、三枝さんは真面目な顔をして強く頷いた。



……優菜さんのことが、頭に浮かぶ。

浩平さんが俺に会いに来ているなんて、きっと知らないんだろうな。

彼の誘いを、俺に伝えなかったくらいだから。



優菜さんも、俺と距離を置き始めている。


“杉浦さん”と呼ぶようになった俺に。

彼女は、他人行儀な敬語で話すようになった。


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