†Orion†
弘美は口を尖らせながら言ったあと、小さな声で俺に耳打ちした。
「……裏に、優菜さんが来てる」
親指でクイと裏口のドアを指し示す弘美。
瞬時にして、自分の顔がこわばっていくのを感じた。
「お店の鍵、忘れたんだって。て言うかさ、ホール忙しいから、あんた届けてくれない?」
「は? なんで俺が……」
戸惑う俺のことなんか無視して、弘美は休憩室に行き、優菜さんが管理している店の鍵を持って出てくる。
「はい、頼んだわよ。あー、忙しい忙しい」
俺に無理やり鍵を押し付け、弘美はわざとらしく言いながらホールへと出て行ってしまった。