†Orion†
俺に向けられる敬語。
別に、タメ口だっていいだろ?
ホール担当の主婦はみんな、俺が様変わりしてもタメ口で接してくるのに。
優菜さんだけが敬語を使うようになった。
「……あの……、敬語、やめてくれませんか?」
街灯に照らされた道を歩きながら、俺が最初に切り出した話。
優菜さんは足元に視線を落としたまま言う。
「斉藤くんはいずれ料理長になる人でしょう?」
「……そんな、ずいぶんと先になる話じゃないですか。第一、料理長になれるのかも……」
「あたしはパート、斉藤くんは正社員になる人。正社員に向かって、友達感覚で話すなんてダメですよ」
本当に、理由はそれだけなのか――……?
俺が正社員になると決めてからも、普通に喋ってくれていたのに。