†Orion†


「そう。聞いたんだ……」



優菜さんの口調が、敬語からタメ口へと変わる。

それだけで、優菜さんとのあいだにできていた壁が、少しずつ崩れていくように感じた。



「正直……迷ってる。浩ちゃんと別れた方が、逆に奈緒たちのためになるんじゃないかって。仮面をかぶったままの夫婦に育てられて、本当に幸せなのかなって」


「…………」



浩平さんの時には言い返せたのに。


“仮面をかぶった夫婦”に育てられた子供は幸せなのか。

それを持ち出された途端、何も言い返すことができなかった。



「杉浦さんは……浩平さんに、ほんの少しの愛情もないんですか?」



やっとのことで出てきた言葉に、優菜さんは苦笑しながら言った。



「それをあたしに訊くの――?」


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