†Orion†


「………っ……」



この人は、俺の好きな人。

好きな人には幸せになってほしいし。

さらに、彼女の血を引く奈緒ちゃんたちにも幸せになってほしい。


その思いから失ったものは、純粋な“好き”という気持ち。



「……“優菜さん”」



久しく呼んでいなかったその名を口にする。

瞬間、封印し続けた思いがこぼれそうになる。



「俺は、奈緒ちゃんたちを思って身を引いたんです。その気持ちを汲み取ってほしいんです、浩平さんにも優菜さんにも。……押し付けがましいですけど」


「……じゅうぶん汲み取っているわ。身を引いたのは、雅人くんだけじゃない。あたしもだから」



“雅人くん”

彼女にそう呼ばれるのは、きっとこれが最後になるだろう。



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